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補助金が減る?増える?政権交代とともに変わる中小企業支援制度を読み解く
はじめに:政権交代と補助金制度への波及
日本では、政権交代が起こると、中小企業支援・産業政策・財政政策の方向性が見直されることがしばしばあります。補助金制度も例外ではなく、予算配分、支援対象、優先政策分野、審査基準などが変動する可能性があります。
特に、令和期後半~令和8〜9年頃においては、「脱炭素・環境対応」「デジタル化」「地域再生」「成長重視」などが行政テーマとして注目されており、これらの流れを反映して補助金制度が改編される可能性があります。本稿では、制度設計、予算、対象分野、運用ルールなどの観点から、変化の可能性を整理しつつ、企業・小規模事業者として備えるべき指針を示します。
なお、以下はあくまで “予想” であり、実際の制度変更は政治力、与野党の政策公約、財政状況、国会審議などに左右されます。
現状のおさらい:最近の補助金制度の動向
まず、現行制度の傾向を押さえておくと、予測が立てやすくなります。
小規模事業者持続化補助金
・2025年度には、これまであった「卒業枠」「後継者支援枠」などの特枠を整理し、申請枠をシンプル化する動きが出ています。
・インボイス特例・賃金引上げ特例による補助上乗せ制度が導入されており、補助上限50万円に加えて、これら特例を活用することで上乗せ可能という条件が付されています。
・補助率・審査基準が厳格化する方向(経営計画の中身重視など)への転換が言われています。
・公募スケジュールも明確化され、手続き要件の見直し(見積書提出義務化など)も導入されています。
ものづくり補助金
・2025年も継続実施される見込みで、補助上限額が 4,000万円 に設定され、かつ 収益納付義務を撤廃 する方針が打ち出されています。
・制度の目的としては、中小企業の設備投資・生産性向上・技術革新・デジタル化対応などが重視されています。
・審査項目として「脱炭素対応」「環境配慮」「グリーン技術」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」などが今後より重視されるという予測が出ています。
このような現状を踏まえて、政権交代が起こった場合に起こりうる制度変更を予測していきます。
政権交代によって想定される主な変化
以下は、制度変更が起き得るポイントと、それがどのような影響をもたらすかを整理したものです。
1. 予算規模・配分の再編
新政権が掲げる政策目標(たとえば「環境」「地域振興」「成長戦略重視」「地方創生」など)に合わせて、補助金予算の配分がシフトする可能性があります。
→ たとえば、ものづくり補助金では「グリーン化」「脱炭素対応」分野を優先枠に設定、従来分野(汎用機械設備や製造ラインの単純改修など)への配分を圧縮することも考えられます。
補助金の総枠(国家予算から中小企業政策に振り当てる金額)を増減させる可能性もあります。景気刺激や成長加速を重視する政権なら補助金予算を拡充する一方、財政引き締め優先政権なら抑制・見直しが入る可能性があります。
補助金・助成金制度自体を再編、統合または縮小、廃止する選択肢もあります。たとえば、類似制度の統合や支援対象業種の見直しといった「整理統合」の動きが生じるかもしれません。
2. 優先分野・加点・条件強化
前述のように、政権が重視する政策テーマ(例えば「脱炭素」「ゼロエミッション」「再生可能エネルギー」「DX」「地域活性化」「女性・若者起業支援」など)が補助金制度の評価・加点基準に反映される可能性が高いです。
→ ものづくり補助金で「環境・省エネ型設備導入」が加点対象になる、あるいは特別枠になる可能性。
→ 小規模事業者持続化補助金でも、例えば地域共創型、コミュニティ型、観光振興型など、テーマ別特区枠を設ける展開も考えられます。
上乗せ特例(インボイス特例、賃上げ特例)の要件が見直される可能性があります。たとえば、賃上げ要件がさらに厳しくなる、もしくは新たな特例(脱炭素対策特例、ICT導入特例など)が追加される可能性があります。
審査の厳格化・事業計画の質重視化が進む可能性。財政配分が厳しくなれば、単なる形式的な計画では採択されにくくなる可能性があります。
3. 手続き負荷・要件変更
補助金申請手続きの簡素化を掲げる政権なら、電子申請手続きを見直して利便性を上げる改革がなされる可能性があります。一方で、不正防止を強化する流れが強まれば、提出書類や審査チェック項目が増える可能性もあります。
書類要件(見積書、事業計画書、資料提出など)の強化・義務化がさらに進む可能性があります(例:すべての経費に正当性を示す見積書を提出必須、実績報告書の内容強化など)。
補助金の交付タイミング・支払い方式(前払い・中間立替・後払い等)に見直しが行われる可能性があります。
監査・実績チェック体制の強化、不正防止措置(クロスチェック、現地調査、情報公開義務など)が強化される可能性があります。
4. 補助対象者・対象地域の見直し
補助対象となる業種・事業者要件の見直し(たとえば、所得基準、売上高要件、資本金上限、過去補助歴の条件厳格化など)。
特定地域(地方、過疎地、地域振興地区など)を重点支援地域に設定し、優遇措置を設ける可能性。
共同申請、連携事業、複数者参画型支援枠など、複数事業者による応募や共同事業を促す枠が強化される可能性。
5. 長期安定性 vs 短期重点施策
新政権においては選挙政策や政権基盤強化目的で、目立つ「新規補助金」「新枠」を打ち出す可能性があります。これにより、既存補助金制度に対して「恒常予算化」または「一時的拡充/見直し」が行われやすくなります。
一方で、選挙やポピュリズム的政策の後撤リスクもあるため、補助制度が「継続性を持たないうちに頻繁にルール改変が起きる」リスクも考えておいた方がよいでしょう。
補助金ごとの予想シナリオ
以下に、小規模事業者持続化補助金およびものづくり補助金について、政権交代後に取りうる変化のシナリオを予想してみます。
小規模事業者持続化補助金
シナリオ A:制度拡充路線(成長重視政権)
補助金予算の増額、申請枠の拡充
地域共創型、観光振興型、デジタル化型といったテーマ枠を新設
加点要件に「地域再生」「DX対応」「グリーン戦略」などを盛り込む
手続きを簡素化し、地方商工会・自治体連携型運用を強化
小規模事業者に対する支援を手厚くする方向
シナリオ B:予算引き締め・要件強化路線
補助金総枠の見直し、規模縮小
特例制度(インボイス特例・賃上げ特例)の見直しまたは撤廃
書類要件・審査基準の厳格化
新規性・地域性重視を強め、凡庸案件への支援を絞る
交付時期の遅延、実績報告強化、不正対策の強化
ものづくり補助金
シナリオ A:革新・グリーン化促進路線
補助上限 4,000万円前後を維持または引き上げ
収益納付義務の撤廃を継続
脱炭素技術、環境対応設備、カーボンフットプリント低減などを加点項目に
デジタル制御、IoT、スマートファクトリー化など DX 推進関連のプロジェクトを優遇
海外展開・輸出支援や地域産業連携型支援枠を強める
シナリオ B:絞り込み・効率化重視路線
上限額を見直し、より中小規模案件を重視
収益納付義務を再導入または条件付き導入
基本的な改良・改修案件に対して補助対象から除外
事業計画の審査要件をさらに厳格化
不正防止・監査強化、実績フォローアップ重視
経営者・補助金申請者が取るべき備え
政権交代による制度変化に備えるには、次のような戦略を講じることが有効です。
最新制度動向を逐次ウォッチ
政権交代後の政策発表、予算編成動向、閣議決定、公募要領などを早めに把握する。
補助金以外の資金調達ルートも検討
補助金に依存しすぎず、融資、助成金、クラウドファンディング、自社投資など多角的な資金調達戦略を持つ。
事業計画の汎用性・強靭性を高める
脱炭素・DX・地域貢献など、政策テーマに合致しやすい方向性を取り入れた事業計画を作っておく。
申請体制の強化
公的制度の変化に柔軟対応できる申請ノウハウ、書類準備体制、専門家との連携を整備しておく。
複数制度を併用できる構成を検討
小規模事業者補助金、ものづくり補助金、IT導入補助金など複数制度を組み合わせられる設計をしておく。
リスク分散・早期申請を心がける
政策変化リスクを見越して、できるだけ早めに申請スケジュールを押さえておく。
結びに:不確実性の中だからこそ備えを
政治の変動が補助金制度を揺さぶる可能性は十分にあります。ただし、その変動を「機会」に変えるか「損失」に変えるかは、事前の情報収集・戦略準備・柔軟性にかかっています。
現政権の政策方向(環境・DX・成長重視・地方再生など)を踏まえ、それを補助金制度にどう反映するかを予測しつつ、自社の事業構造をあらかじめ整えておくことが不可欠です。制度が変わっても対応できる設計をしておけば、大きなチャンスを逃さない可能性が高まります。